レゲエ・シーンを燃やす火の玉、Fire Ball(以下、ファイヤーB)。トップ・レベルのソロ・マイカーが贅沢にも結集したこのドリーム・チームが担う期待は大きい。それは本隊であるマイティ・クラウンが世界規模のレゲエ最前線で一歩も引けを取らず活躍して大きな道を開いたのと同様、ファイヤーBがJ・ポップスにおいて、レゲエをスタンダード化させるために送り込まれた精鋭部隊でもあるからである。その彼等がメジャー2枚目となるアルバム『Book Of Life〜炎の章〜』を完成させた。「横浜レゲエ祭」の野外開催も実現の運びとなり、「フジロック03」への参加も決定した現在、新たなトライアルに踏み込む直前の彼等に話を聞いた。

もう2枚目だし、どう? こなれてきた感じでしょ?
Truthful:でもやっぱり産みの苦しみもあっての出来上がってからの喜びってことじゃ、1枚目も2枚目も変わらないよ。

そうか。ソロの組み合わせなんかを織り交ぜれば、アルバムなんてこのメンバーだったらすぐ出来ちゃうと単純に思っちゃうけどね。
Chozen Lee:もちろんそれをやれば簡単なんだけど、今はファイヤーBをもっと確立しなきゃいけないから。
Jun 4 Shot:メジャー・デビューを機会に、グループとしてのファイヤーBになったんだよね。
Criss:その分、ソロは(マイティ・クラウンの)ライフ・スタイル・レーベルで思いっきりやっていこうかな、ていう。
Truthful:だからこの4人で出来ることにこだわってやってる。この4人が集まった時に「ファイヤーB」っていう広いレンジを持ったもう一人の人格を作り上げるっていう。そういう意味では、まだまだ進化の途中だよね。

なるほど。その点では「Kick Up」とか「Da Bala」、「着火のテーマ」辺りの完成度はかなりイメージに近づけたんじゃないの?
Criss:そうだね。アルバムの制作に入った当初はああいう感じで統一するっていうのが一つの目標としてあったかもね。
Chozen Lee:でも、やってる流れの中から、こういうアルバムに向かっていった感じかな。

バンドでやった「雨が上がるまでの間」と「Jungle Roots」みたいな曲も、スッゲーみんなの持ってる良さが素直に引き出されて良かったよ。
Jun 4 Shot:あのバンドはJungle Rootsっていう名前なんだ。ベースがクーボさんで、ドラムがリトル・テンポの大石さん、ギターがロッキン・タイムの山本さん、キーボードがロッキン・タイムの森さんと、ドラヘビの外池さん。最高のメンバーにやってもらったよ。
Criss:音楽のドラえもんに会ったって感じだったな。こういうのが欲しいって言ったらすぐ「ハイ」って出してくれるからね。

音楽のドラえもん(笑)…なるほどね。で、このインタビューが『リディム』だからこそ訊きたいんだけど、問題の曲「平和依存」。この曲を入れるに当たって若干揉めたとチラッと耳にしたんだけど。ものすごくストレートに反戦の歌だよね、怖いぐらい。
Chozen Lee:そう、あの曲を聴いてイヤな気持ちになる人もいるんじゃないかって意見もあって、収録に当たって若干揉めた。

でもさ、それ以前にストーリー性もあって、何より表現力がスッゲー豊かっていうか、オレはファイヤーBがメジャー作品においても、ああいう熱さを保っててくれてることに意義があるって思うんだよね。
Truthful:やっぱ制作中に実際起きてた出来事に対し、オレらなりに反応したかったていうか、オレらがレゲエをやってる意味っていうか、伝えたいメッセイジまで骨抜きにされちまったら、オレらがオレらでなくなっちまうっていうかね。やっぱ絶対入れたかったってのはある。その変わりあの曲の後に癒しが必要になって「雨が上がるまでの間」に繋がってったのかな。
Chozen Lee:そうやってアルバムを作っていく内に、当初考えてた最新ダンスホール的なものだけではなく、正にライフみたいな色んな局面が見えてきて、後付なんだけどタイトルを『Book Of Life』にしようかなってことになったんだよね。
Truthful:そう、人生に色んなことがある様に、オレらの伝えたいことはアルバム全体がそうなんだよね。アルバム全部が一つのメッセイジだし、そう思ってみんなが聴いてくれればいいなって思ってるよ。



 吹替え版のジャッキー・チェンの声を進行役にアルバムは始まる。4人の集合体である新たな人格「Fire Ball」が前半にダンスホールを完璧にロックし、デリ&マッチョの客演を迎えた辺りから漂い始める不穏な空気は、9.11.以来世界を包み込んだ現実を直視させ、それは前述の問題作「平和依存」でピークに達する。それを癒すために用意された悲しくも優しい「雨が上がるまでの間」を聴き終えた頃には、涙を流しきった後の吹っ切れた感じにも似た感覚に包まれ、Yoyo-Cを迎えた「Run Come」で、ライフは再生の方向に向かう。そのまま訪れたダンスホールの楽しさを経て、未来=次作へ向けた新たな意思表明とも取れる力強い「Jungle Roots」を歌いきってアルバムは幕を閉じる。聴き終えて感じるのはやはり彼等だからこそ表現し得るポジティヴさ。それに他ならないっていうのが僕の感想だ。

 ところでファイヤーBが「フジロック」に出る。まだ間に合うからみんな見に行こうよ。全ジャンルが集まるあの現場でヘリコプターが巻き上がるところをオレは見てみたい。鳥肌が立つんじゃないかな。泣くかもね。みんなの期待を背負って回せプロペラ! 見せてくれファイヤーBっ!!





"Book Of Life"
Fire Ball
[Toshiba EMI / TOCT-25066]