日本でも定着してきたサウンド・クラッシュ。その本質は、分っているようで、実は分かりにくいもの。そこで「Mental」で見事チャンピオンの座についたベテラン・セレクター、Ricky Trooperに今回の勝因とサウンド・クラッシュについて話を聞いた。

 この秋はクラッシュが熱かった! NYでは「ワールド・クラッシュ」。日本では恐らく初となった、ジャマイカ勢トップ・クラスのセレクターによるサウンド・クラッシュ・イベント「メンタル」(クラッシュが行われたのは川崎のみ)。日本人精鋭による「衝撃」。その他、若手セレクターによる45のみでのクラッシュ等、半月ほどの間に、立て続けに行われたのだ。

 今回は、今年の「ワールド・クラッシュ」のチャンピオン、Black KatのPink Pantherが「メンタル」に出演のため来日と言う事で彼にインタビューを予定していたのだが、川崎で行われたクラッシュでは、まさかの(そうでもないか…)一回戦敗退!

Tony Matterhorn圧倒有利かと思われたが、老舗、Killamanjaroから独立後、初来日となったRicky Trooperの見事な逆転勝利!を受けて急遽予定変更。今のサウンド・クラッシュのスタイルを作った男、そしてJaroを率いて一時代を築き上げ、殆ど全てのセレクターに影響を与えたMr.セレクター、Trooperに話を聞く事にした。これを読めばクラッシュ・イベントが10倍楽しめる!?

●日本は久しぶりですね。Sound Trooperとしては初めてとなりますが、日本のオーディエンスの反応はどうでした?
Trooper(以下T):反応はそんなに変わらなかったよ。Sound Trooperはまだ無名だけど、Ricky Trooperの事は皆知っているからね。

●先日の川崎での逆転勝利はお見事でした。
T:Matterhornは来日回数も多いし、去年も来てるから、日本のシーンの感じが分かってるんだ。日本で受ける曲とかね。俺はここ何年も来日してないから、どんなシーンになってるか分からなかったんだ。前にJaroで来た時はもっとハードコアな曲("Sick" リズム等、戦闘的なオケに、更に戦闘的なリリックを乗せた、死ね死ねチューン)ばかりかけたんだけど、今回はもっと若い層のことを意識して、ジョグリンな曲(流行りのオケにダンスのリリック等の、所謂パーティ・チューン。現在の主流)もかけたんだ。

75%ハードコア、25%ジョグリンでね。とにかく最初の脱落者にはなりたくなかったからね。最初にプレイするのはプレッシャーだったね(当日はTrooper、Matterhorn、Pantherの順でプレイ)。後からやるヤツは、前のヤツのエネルギーを受けて始められるからね。

 始めの方にも書いたが、現在のクラッシュのやり方・ルール等は、Trooperの繰り広げてきた数々のクラッシュの中で、半ば言いがかりの様に決めてきたものが多い。前記の「衝撃」でも、まさに“衝撃”を呼んだ、プレイバック(自分、又は相手がかけた曲をもう一度かけること)の禁止。ダブプレート以外は認めないラウンド。なにより、そのMCのスタイル等々。

T:確かにクラッシュのスタイルに大変革をもたらしたのはオレさ。オレがJaroに参加しだした頃はセレクターのMCとかも、形式ばった曲紹介みたいな事ばかりだったんだ。そこでオレはそれをバッド・ボーイ・トークでやりだしたんだ。それと、その頃のサウンド・システムは、クラッシュでも決まった曲やDJばかりだったんだ。でもオレはそこにコントラクションを持ち込んだんだ。コントラクションっていうのは、大体相手のかけそうな曲や言いそうな事を予想しておいてそこをツっこむダブを作っておくのさ。

それで相手がプレイしてるのを聞いて弱点を探すんだ。そうして次の自分の回に、そこをダブでツッこむって訳さ。でも当時のサウンドの方が、今よりもっと個性的で競争力が強かったかもな。専属のDJもいたしね。今じゃ誰もがオレみたいにバッド・ボーイ・トークで叫んだりしてるだろ。皆、オレとおんなじになっちゃったよ。だからって、その事で名誉や名声を得られたりするわけじゃないけどな。でもオレが死んだり、レゲエの歴史なんかをリサーチした時には、オレの名前が出てくるかもな。

 そんなTrooperに、いまのシーンについても聞いてみた。

T:オレが思うにサウンド・システムは昔に戻ってる感じがして、先に進んでる訳じゃないのかな。長い間、新しい事をやっているんでもないしね。言う事も「バティ・ボーイ嫌いなヤツは手をあげろ!」とか、新しい事を言ってる訳でもないし。でも、この10年間のシーン最大級の功労者の一人はマイティ・クラウンだろうな。同時代のキーマンの一人だよ。あいつらの活躍のお陰で、ジャマイカのカルチャーを、それまで無縁だった国や層にも届かせたのさ。今じゃ「ワールド・クラッシュ」にイタリアのサウンドも出てくるし、日本のどんなセレクターだって、ジャマイカ人よりレゲエに詳しいもんな。

 最後に今までで一番タフだったクラッシュを挙げてもらうと…

T:この間の川崎かな。相手は今年の「ワールド・クラッシュ」のチャンピオンと、今年は2回も大きなクラッシュで優勝してるMatterhorn。そんな中、オレは独立してから3年間も苦戦が続いてたし、インターネットとかでも「Trooperは終わってる」なんて書かれてたからね。クラッシュが終わって、朝、外へ出たら雨が降り出したんだ。Jahが祝福してくれてる、って思ったら泣けてきたんだ。オレが泣いたなんて秘密だけどな(笑)。