観客を日本一飛ばし、日本一跳ねさせるレゲエDJ、と言えば、やっぱりH-Man。2002年にリリースされた『レゲエ馬鹿道場』から1年半、待ち疲れたファンをニヤリとさせる話芸が詰まった2ndアルバム『馬鹿話』がここに完成! さて今回、彼は何を企んでいるのか?

 「最近はお客さんからも“まだなのか!”って言われちゃって……、スイマセン」と、予定では昨年の夏にリリースすることだったらしいH-Manの2ndアルバム『馬鹿話』が、遂に完成した。遅れた甲斐あって、お得意のお笑いから盛り上げまくりのパワフルなチューンなどなど、最初から最後まで楽しめる密度の高い一枚になっている。待ってたレゲエ馬鹿(筆者含む)も納得の傑作アルバムと言ってよいだろう。一聴して分かるのは、アルバム全体に漲るライヴ感。そう、本誌読者ならよくご存知のあのH-Manのライヴでのアゲっぷりが、この2nd『馬鹿話』では満喫できるのだ。

 「前作『レゲエ馬鹿道場』をリリースするまでは、やっていたのは、ほとんど現場じゃないですか。だから、ちゃんと腹から声が出ていないとかだと思うんですけども、レコーディング慣れしていなかったですからね。でも、前作をリリースし、Home Grownとかと外部の仕事をするようになって、レコーディングにも慣れて、好きになりましたんで」

 外部仕事の一つ、最近のライヴでお馴染みの「Odori Odoru」がアルバムに収録されているが、先行7インチとして切られる「スキャバ!!」が、その手のチューンとしては強力な1曲だ。
 「トゥーツ&メイタルズ“Dog War”のリメイクなんですけどね。昔これを、Moominに歌わせようと思ったことがあるんですよ。“この曲カッコイイから歌いなよ”って言ってたんだけど、全然相手にされず(笑)。まぁ、でも僕は好きな歌で、あれから10年ぐらいかかっちゃったんだけど、自分でやろうかなと」

 そのMoominは、Dean Fraserもかかわった温かいサウンドが心地よい「未知の道」で、喉を披露している。
 「リリックでMoominを想定して書いていたら、ホントにMoominが歌で入ってくれることになってね。そういや、Moominがリリックを書いている姿とかって、感慨深いものがありましたね。凄い真剣に書いているんで、ちょっと好きになりました(笑)」

 今回アルバムのために新たに録ったコンビネイションは、先のMoominとの曲の他、RhymesterのMummy-Dとの言葉合戦が熱い「カケコトバ」、御大Rankin Taxiとの笑ってはいけない「戦争やだな!!」の計3曲。
 「ヒップホップの人と誰かやりたい、と思ったときに、最初に名前がでたのがMummy-Dだったんですよ。で、俺がラップでMummy-Dがレゲエっていうスタイルでやってみたんです。でも、Mummy-Dには“(H-Manのはやっぱり)レゲエに聞こえるよ”って言われ……(笑)。Rankinさんとは前回もやりたかったんだけれど、うまくタイミングが合わなかったんで、“今回はぜひ”ってお願いしましてね。Rankinさんとレコーディングできたのは、うれしかったですねぇ〜。で、Rankinさんと馬鹿なこと言ってたら、どんどん話がヤバくなっちゃって(笑)」

 コンビネイションとしては、ライヴの定番となっているHome Grownとの「想い出の渚」と「星にお願い」が揃ってメデタク収録されているが、H-Manの定番といえば、やはり「サザエ」……もとい「飛んどけ跳ねとけ」。今回は、そのパート3が収録されている。
 「今回はリディムに“プナーニ”を使っているんですけども、それを含めてお約束っていうことですよ。でも、完成されたものを違った角度で書くっていうのは、けっこう昔は出来なかったかな。それが出来るようになったのは大きい。レコーディング慣れもし、ライヴもレコーディングみたいに一定のクオリティでできるし、その逆もあって、どっちの要素も取り入れられる相乗効果みたいのは最近感じるね」

 冒頭にも書いたが、新作『馬鹿話』の圧倒的なライヴ感は、H-Manの成長を如実に表していると思う。その成長の裏には日々の努力があったのは当然だろう。アルバムの中で、ひたすら笑える曲「Diet」にしても、H-Manには挑戦だったのだ。
 「ネタ的な“Diet”のような曲はライヴだけ、と昔は思っていたんですけども、面白いのも先に出しちゃって、ライヴではさらに他のネタを作るぐらいな、ちょっと上のレベルに行こうかなと。ダイエットでもオッパイでも、それこそ“飛んどけ跳ねとけ”とか、同じネタでどれぐらい違った切り口で話せるか、っていうところでね」

 そんな試練を自らに課しつつ無事アルバムも完成。H-Man自身も自分の成長を噛み締めているようである。アルバムの最初と最後を飾る、Roots Radicsのトラックを使った「馬鹿な話」と「トケナイトイ」が、どうやらその成長の証のようだ。
 「前回の“ラガラガレゲエ馬鹿道場”もRoots Radicsで、その時に“馬鹿な話”に使った“ダブ・オーガナイザー”の音も聴いてたんですよ。でも、昔はあの手のトラックじゃリリックが書けなかったんですよ。そういうのがなんか出来るようになってね」

 説明不要と思われるライヴでの盛り上げ番長っぷりに加え、レコーディングをも完璧に武器にしたようで、もはや鬼に金棒状態。そんなモチベーションも上りっ放しな状況下で、4/9(金)、東京で初のワンマン・ライヴが渋谷クアトロで決行されるという。盛り上げ番長ゆえ、その内容は観る前から保証付き。ま、それまでは、この濃密な2nd『馬鹿話』を聴き倒すということで。




『馬鹿話』
H-Man
[Overheat / OVE-0090]

HISTORY

 「ボブ・マレーが事の始まり/僕の頭を軽く一撃/くらってはまった沼は底なし/Yellow Man聴きもう戻れない/追い撃ちをかけるRankin Taxi/日本語の響きが生々しい/釣られてうっかりマイク握り/サクっと人生無駄使い」(「ラガラガレゲエ馬鹿道場」より)

 現場でしか聴けない“しゃべくり芸”を武器とし、横浜を拠点に、濃ゆいレゲエ馬鹿生棲地で確実にその名を知らしめつつあった90年代後半。H-Manはその持ちネタを少しずつ音源に落とし込むようになった。Nanjaman率いる“爆音シンジケート”発のテープ・アルバムで「Si Dung Pon Riddim」が聴け、またRankin Taxiプロデュースの新人ショウケース・アルバム『Bad Bad East』(現在は廃盤。現在はミックスCD『Bad Choice』でその一部が聴ける)で「Booyaka」が聴けた時は、ようやくこの天才芸人DJの時代が来る、と誰もが確信したものだった。アルバムが出ない、という点ではプロフェッサー・ナッツ級のレア度(?)を誇っていただけに(というよりも、その時点でフル・アルバムを出せていたDJはまだまだ少なかったのだ…)俄然期待感は高まったのだが、それから我々は約5年間待たされることになろうとは…この時は露知らず。そして同じく“Bad Bad”シリーズの『Bad Bad '98』で「飛んどけ跳ねとけ」、『XX Bad』('01)で「物申すっ」を各々提供した後、H-Manはグイグイとレコーディング・アーティストとしての頭角を顕し始めるのだった。
 それらのリリースの流れもあってかオーバーヒート・レコーズ所属となった彼は、01年7月に「Si Dung Pon Riddim」を、翌02年2月に「Hey Yo!」のシングルを切り、同じ年の7月にはキャリア10余年の含蓄が詰まった1stアルバム『レゲエ馬鹿道場』を満を持してリリースする。冒頭で引用したフレーズ(レゲエに魅せられマイクを握ったきっかけ)から始まるそのアルバムは、全てのレゲエ・ファン(=レゲエ馬鹿)に向けられた、どこかサウダージすら覚える好内容だった。その後の彼は、しかしまた至ってマイペースに、ライヴ、ダンス、ダブを糧に全国を廻り、「飛んどけ〜」などの必笑チューンでコール&レスポンス、ジャンプ&ワイニーの嵐を呼び、“盛り上げ番長”としての役割を全うする日々を送っていた。そして、02年にはHome Grownのファースト・アルバム『Home Grown』でNeoとのコンビネーションで「星にお願い」を、『Rock City』のコンピでは「Odori Odoru」を、03年にはHase-Tプロデュースの3ウェイ・コンピ『Dancehall Premier』で「そんでっ!?」を、またHome Grownのセカンド・アルバム『Grown Up』ではGS界の大御所ザ・ワイルドワンズとの異色コンビで彼らの代表作「想い出の渚」を、といった具合に各々にインパクトのあるチューンで全国の馬鹿たちを楽しませてくれたばかりだ。そして04年2月20日、約一年半ぶりとなる待望のセカンド・アルバム『馬鹿話』をオーバーヒート・レコーズよりリリース。
(文/二木崇)。



DISCOGRAPHY
[Album]
[SINGLES]

『レゲエ馬鹿道場』
[Overheat / OVE-0085]
(July, 2002)
「Si Dung Pon Riddim」
[Overheat / OVE-0080]
(July, 2001)
「Hey Yo!」
[Overheat / OVE-0084]
(Feb, 2002)

[COMPILATION & FEATURING ALBUMS]
『Bad Choice』V.A.
Feat.「飛んどけ跳ねとけ
」「Booyaka」
[Overheat / OVE-0078]
(Jan, 2001)

『XX Bad』V.A.
Feat.「物申すっ」
[Overheat / OVE-0079]
(May, 2001)]

『Home Grown』
Home Grown
Feat.「星にお願い」
with Neo
[Pony Canyon /
PCCA-01702]
(July, 2002)

『Rock City』V.A.
Feat.「Odori Odoru」
[Victor / VICL-61054〜55]
(Dec, 2002)
『Dancehall Premier』V.A.
Feat.「そんでっ!?」
[Victor / VICL-61152]
(June, 2003)
『Grown Up』
Home Grown
Feat.「想い出の渚」
with The Wild Ones
[Pony Canyon /
PCCA-01914]
(July, 2003)