名実ともに“Queen”の称号がふさわしいレゲエ・シンガーは? それがPushimであるということに、異論を挟むリスナーは少ないだろう。そんな彼女による待望の新作『QUEENDOM』は、Elephant Man、Fire Ball、Lenky、Richard & Robert Browne、Don G、Home Grown、森俊也……など、日本・アメリカ・ジャマイカの名立たる面々が集結し、最強のアルバムに仕上がった。

 僕は、昨年秋に行われたShibuya-AXでのワンマンライヴを観て、Pushimこそが日本のレゲエ・クイーンだ!って、自分のなかで勝手に称号を授けていたので、『QUEENDOM』っていう新作のタイトルを見ても「そんなん当たり前じゃん」というか「喜んでシモベになります!」って平に伏すぐらいに納得していた。

 「なんか“女帝”って感じですよね(笑)。ぜんぜんそんな意味じゃなく、自分のなかでは、同じ土のなかからいろんな花が咲いてるようなイメージなんですけどね。ラヴァーズとかダンスホールとか、ルーツから……(いろんな花が咲いてる)レゲエっていう領域を制覇しようっていう」

 そう言ってPushim自身は謙遜するけれど、この『QUEENDOM』は、クイーンたる風格と実力にあふれた力作であることには間違いない。彼女の下に集まったナイトたち=プロデューサー陣/フィーチャリング陣も、腕におぼえのある強者ばかりだ。まず、なんといっても目を惹くのはElephant Manとのコラボレーション「SATIS-FACTION」。トラック・プロデュースを手掛けたのは、リフージー・キャンプ・バンドのDon G。「It's Too Late」以来の共演である。

 「6月にNYに遊びに行ってて、5年ぶりぐらいにDon Gと会ったんです。で、たまたまそこで彼が持ってるトラックを何曲か聴かせてもらって、すごく気に入って日本に持ち帰って作っていったらさらさらメロディが出てきて。あとはダンス・チューンのなかのさらにダンス・タイムみたいな、キュッとしめるような感じでElephant Manの声とか入れたらいいかも?って……ほんとにそれも思い付きですね。この歌の感じを把握してもらってリンクしてもらいたいと思ったから、サビだけは英語にしたけど、自分のなかでは違和感を感じなかったし、絶対カッコよくなるって信じてたから」

 この「SATISFACTION」を筆頭に、『QUEEN-DOM』はこれまで以上にダンス・チューンが充実している。たとえば昨年発表されたシングル「I Wanna Know You」から久方ぶりとなる、Lenkyとのコラボ「CRAZY FORTUNE」。

 「(Richard&Robert Browneがプロデュースを担当したシングル)"Like a sunshine, my memory" に関しては、スパニッシュでメランコリックな感じっていうのを意識して作ってもらったんですけど、"CRAZY FORTUNE" は、Lenkyと(ベースを担当した)Sly Dunbarが作ったトラックがまたラテンっぽくて。彼らのスタイルが美しく出来上がっていったんで、私のメロディも知らず知らずのうちに大人っぽいものになってました」

 その「CRAZY FORTUNE」と「Like a sunshine, my memory」をつなぐように作られた、Home GrownのTancoプロデュースによる「BODY & SOUL〜ラガMe Baby〜」はソカ寄りのアプローチをみせている。

 「最初はインタールードのつもりで作っててたんですけど、どんどん激しくなっていって(笑)。『Pieces』のツアーから、アフリカン・ビートやったり、ノリのいい音でみんなただ踊らすだけの時間っていうのを作ってるんです。Kon Kenとは“隙のないダンスホール・チューンを作ろう”っていうのをテーマにしてたんですけど、今回、そのコツが掴めたような気がしてます」

 さらには、初のフィーチャリングとなるFire Ballとの「スタッカート・スタッカート」は、退屈でワガママな王女をFire-Bの面々がなんとかして楽しませようとするコミカルな設定も含めて、ステージ映えしそうなナンバーに仕上がっている。

 「前にPapa-Bと一緒にやった“雨のバンドネオン”もあったんで、こういう言葉を使ったら面白くなるんじゃないか?とか、どんどん頭もやわらかくなってたし、やっぱりFire Ballは、一人では考えられないところまでストーリーを思い浮かべられる人たちだから。今回はじめてやってよかったなって思いましたね」

 もちろんガンガン上げていくだけがPushimの魅力ではない。聴く者が思わず息を飲んでしまう絶唱も、この『QUEENDOM』には収められている。そのひとつが、先行シングル「SOLDIER」のカップリングにもなっている、レベッカの隠れた名曲「真夏の雨」のカヴァー。森俊也がプロデュースを担当し、Little TempoのTicoらも参加したバラードは、ダブ的でありながら原曲のイメージを尊重したアレンジだ。

 「レベッカのなかでも、シングルでもない曲なんですけど、中学校ぐらいのときすごい好きやったんですよ。で、ある日、これダブっぽくしたらカッコよくなるなぁ……って、お風呂でアタマ洗ってるときに思い付いて(笑)。この思い付きがすごくよかった。私は毎回、アルバムの中にコーラスなしの、声一本だけの曲を絶対入れてるんですけど、これもそうで。コーラスワークに関しては、自分だけで重ねたほうが面白くなるのと、人がやったほうがいい曲と客観的に見て分けていってます」

 ……ああ、この他にもHome GrownのTancoプロデュース曲によるポジティヴ・チューン「FRESH!」や、ナチュラルな歌詞がスッと胸に染みる「a song dedicated」など、素晴らしい歌があるのだが紙数が尽きた。とにもかくにも、『QUEENDOM』はその至るところにシンガーPushimのハイライトが詰まったアルバムだ。




""Fist And Fire"
Fire Ball
[Toshiba EMI / TOCT-25377]


' A Song Dedicated'
Pushim
[Ki/oon / KSCL-697]