その日、ムーミンは歌いたがっていた。観客と一緒に出来るだけ長くライヴを楽しむ様に。どの歌も、自分がライヴで歌うことによって更に輝きを増すと信じているかの様に。その日のムーミンは明らかに歌いたがっていた。

 9月22日、水曜日。恵比寿リキッドルーム。その日、用意された曲は、アンコールを含め32曲。これだけ見ても、いかにその日ムーミンは歌いたがっていたかが分かる。更に改めてそのレパートリーの多さに気付く。考えればムーミンのメジャーでの活動も8年を越え、9年目に突入しているはずだ。これまでコンスタントに6枚のアルバムをリリース。レーベル移籍などの様々な局面を通り抜け、今のムーミンは以前にも増して強力な自分の歌世界と、それを望んで共有してくれる多くの存在を獲得している。ならば、あれもこれも歌いたいのも当然だ。

バックを務めるのは勿論ホーム・G。コーラスも勿論恐山クルー。助っ人に、多くのレコーディングでも協力を得てきた元ビブラストーンの渡辺貴浩氏がキーボードで参加。満員御礼の観客が待ち焦がれる中、秋晴れの様にほのぼのした感じにリアレンジされたホーム・Gの「Oasis」のインスト・ヴァージョンをイントロに、その日のライヴは始まった。

 最初は20分以上に渡る10曲のメドレー。「Music Is A Part Of Me」や「歩いていこう」、「Goodness」等が次々と歌われていく。ここ迄のテンポの良さで会場はすっかり場に馴染んで和んだ雰囲気が漂う。「栽培したい」、「キミノトナリ」などを丁寧に聞かせた後、最初のゲスト登場。アルバムのタイトル・チューン「No More Trouble」で、山嵐のサトシとC.I.C.Mista Sharによる湘南コネクションが共演を果たした。サポートのキーボートがある分、より演奏のレンジが広がったホーム・Gは、この日はママ・Rのピアニカも多用し、ジャジーにアレンジされた「はかなき花」や、衣装チェンジの間のダビーな感じの「かげないのないもの」など、バンドとしていつもと違った引き出しを広げ、意欲的な演奏をしていたのが印象的だった。

 
 後半に入り、テンポよく進行して再びゲスト・タイム。今度は連発。ゼブラ・マン、NGヘッド、ヨーヨー・Cと続いて観客はドッカーンと大騒ぎモード。すかさずラヴ・ミルクを投入してダンシン・ムードを継続。更にナンジャマンの登場で、会場のヴォルテージが最高潮にアガりにアガった上での、「ネバギバ」で更に大盛り上がりになって、本編はひとまず終了。会場では、当然アンコールを求めるコールが続く。

 スローな感じの「いつもそばで」でアンコールのスタート。ここでゲストとしてプシンが登場。名曲「過ぎ行く時間の中で」を感動的に熱唱。会場は満ち足りた空気に包まれた。クライマックスを目前に控え、次の曲は、長く歌われ続けてきた「Time Is On My Side」。2ndシングルにカップリングされていた曲だ。まだライヴで32曲なんて有り得なかった、暗中模索の状態で書かれた最初の頃の歌が、これまで自分を支えてきたという様な思い入れがあるのだろうか。彼は、時間に余裕のあるライヴの時はこの歌を好んで良く歌う。

 「楽しむために」が終ると、聞き慣れたギターのイントロが響く。照明を落とした会場にライターの明かりが灯る。最後は例の歌、「Moonlight Dancehall」で締め。大合唱の余韻と、宴の後のざわめきを残して、ムーミン単独ライヴ東京公演は終わった。

 事実、その日ムーミンは歌いまくった。この瞬間を出来るだけ長く続けるために。歌への渇望を癒すために。どの曲も、どのフレーズも、どのリリックの一字一句も、愛おしむ様に、丁寧に手入れをする様に、ムーミンは歌いまくった。いいライヴだった。満足げなムーミンからは、ベテランの域に到達しつつある彼の貫禄を感じた様に思う。尚、この模様は11月末にDVDとして発売される予定だそうだ。