「DJ Krush待望のベスト」と資料には書いてある。そして、謙虚なタイトル“Steppin Stones”とついており、ラップが乗っている1枚と、インストが1枚ある。そして、長年の聞き手として断言しよう。彼の次の10年はここからはっきり始まる。最高。

 DJクラッシュがまだクラッシュ・ポッセという名前で活動していた頃だと思う。クラッシュ・ポッセのメンバーは、DJクラッシュ以外にMuroがラッパーとしており、DJ GoというDJがいた。僕は、その当時DJクラッシュと既に知り合っており、その夜、彼とDJ Goと3人で遊びに出かけていったのだ。着いたのは、当時原宿にあった某クラブ、ファッショナブルで知られた場所だったが、僕たちが行き着いたパーティはひどかった(と僕は着いて、一杯目の酒を飲みながらそう思っていた)。なにが? DJの選曲とプレイが。そのおかげでパーティ自体のムードもあまりクールとは言えなかったと思う。その時、バルコニーのようになっている2階から、下のダンス・フロアを見下ろしながら僕らは3人で並んで立っていた。すると、隣に立っているDJクラッシュがDJ Goにこう話しかけているのが聞こえてきた。「Go、やっちゃうか?」

 そう尋ねられたDJ Goは「そうですね、やっちゃいますか?」などと答えている。最初、すべてに鈍感な僕は彼らが何を話しているのか分からなかったが、夜遊び始めて短いわけでもなく、2秒後には彼らがDJを「やっちゃう」ことについて話していることに気がついた。さて、そして、それから長い長い時が経ち、僕は今ベスト盤をリリースしたDJクラッシュの前に座っている。

DJ Krush(以下K):この前の『寂』で一区切りみたいのはあったかも知れないですね。それで、こういう(ベスト盤という)アイデアが出てきて、じゃ、出そうか、と。でも、ただベスト盤じゃ普通に出しちゃうのはつまらないし、だったら、全部切り刻んで、作り直しちゃおう、って。リミックス盤って面白いかも知れない、しかも全曲ね。しかも、ラップとインスト分けたら面白いかも知れないね、っていう話になって、自分で、選曲はして、っていうことになった。

今回のベスト盤は、本当にストレートな印象を受けましたが。
K:けっこう、やりたいことはやった感じ。ラップの方に関しては、今回新作ではなくて、ベストじゃないですか、あるものを変えていく意味で。トータルなことはだからあまり考えなかった。1曲1曲アカペラを聞いて、それを詩を見ながらどんな景色が生まれるかだけで、1曲1曲作っていった。アルバムになると、全体のこと考えちゃう。例えば『Meiso』だったら、どうなるか、流れとか、今回はそれはあんまり考えなかった。ラップの方に関して言えば。1曲1曲すごい濃いだろうし、きつい感じがするだろうし、それは出ちゃってるのかな。今までとは違ったストレートさを俺は出したつもりだしね。

新曲として入っている曲に起用されているのは漢ですね?
K:一緒にやったきっかけは、漢君のソロを聞いたからなんだよね。あれすごいいいと思ったし、彼の色が出ていると思ったし、完成度も高いと思ったね。あれを聞いて一緒にやりたいな、と思って。それでふっと思ったら、DJ Bakuちゃんがやってるな、って。そして、Bakuちゃんに電話して紹介してもらって、って感じかな。あと、もう一つの理由は、(漢の)地元が新宿だし、僕が映画『ワイルド・スタイル』見たの新宿だし、新宿で、何年か肩で風きってた時代があるんで、色々な思いもあったしね。今回、『寂』が終わって、一区切りついて、基本にちょっと戻りたいな、あのハードコアな感じにね。それでBakuちゃん通して、やりたいけど、連絡とりたいからって、自分で電話して。作業している時は、寡黙に詩を書いてたし、おかしなきな臭さはない、静かだな、っていう印象だね。ま、他では分からないけど(笑)。

今、新宿という地名が出ましたけど、そういう経験が今の自分にどう関係していますか?
K:まとめちゃうと、あの経験があったから、俺は音楽に戻って来れた。なかったら、多分そのままおかしなことになってたと思う。あん時に俺は約束したし、そのかわり、「音楽をやらないで、どっかでふらふらしているっていう噂を聞いたら、たたき殺す」って言われたから、その恩はあるし、義理もある。それは絶対返したかった。ホントにやばいこと見たしね、聞いたしね、やったし。そこから戻って来れた、ということには本当に音楽に感謝している。戻って来れた、ということにね。
 





"Stepping Stones
The Self-Remixed Best -Lyricism-"
[Sony / SICP-1046]

"Stepping Stones
The Self-Remixed Best -Soundscacpes"
[Sony / SICP-1047]

1st Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
2nd Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
3rd Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
4th Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
DJ Krush
Discography
5th Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
6th Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
7th Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.
8th Album

"Krush"
[Nippon Columbia]
1994.1.